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2020-10-27

HOUSE IN MUSASHINODAI

HOUSE IN MUSASHINODAI
Completion: 2020
Location: Fussa, Tokyo
Design: FARO DESIGN Inc.
Structural Design: Kenta Masaki / Masaki Structural Laboratory
Landscape Design: en landscape design inc.
Construction: IDOTEKKEN Co., Ltd.
Photo: Shigeo Ogawa

武蔵野台の家
竣工:2020年
場所:東京都福生市
設計監理:ファロ・デザイン有限会社
構造設計:正木健太 / 有限会社正木構造研究所
植栽設計:en景観設計株式会社
施工:井戸鉄建株式会社
写真:小川重雄

東京近郊の駅前商業エリアから少し外れた住宅の密集する近隣商業地域で、プライバシーを保護し採光を確保する3階建ての車庫付きの家を設計した。この家を近くの交差点から眺めるとその外観は縦に長く感じられるが、不思議なことにほかの場所からでは印象が異なる。この外観が持つ捉え所のない雰囲気は、建物を支える内部の骨格が不整形であることや、外皮に開口部が少なく内側を想像しづらいことに起因する。

骨格すなわち鉄骨造の構造体が不整形である理由は大きく2つある。1つは、敷地形状が不整形であることによる。さほど広くない敷地の中で有効となる床面積を無駄なく確保するため、外壁を敷地境界線と平行に設け、梁と柱を直角だけでなく、不整形な鋭角や鈍角で接合させた。もう1つは、採光条件が各階で異なることによる。採光の取りづらい1階は自動車利用に適する広い土間とし、2階には個室を集約し、十分に採光確保できる3階は広いLDKとした。広さや位置が各階で異なる無柱空間を支えるため、柱の位置を上下階で重ねない不整形な配置とした。

準防火地域における防火性能や街並みとの相性を考慮し、この家の外皮を近隣の商業施設などで多く見られるALCパネルとした。内部空間や近隣の状況に呼応させるようにALCパネルの幅を部分的に変え、上下階で目地の位置を不揃いとすることで、外皮をつくる工業製品の規則性にわずかな揺らぎを持たせ不完全にした。外皮の揺らぎは、細胞組織や鉱物の結晶が規則的な配列の中に不完全な部分をつくることに似て、無理なく自然な振る舞いであると考える。

季節や時間、天候ごとに移り変わる多様な質の光を屋内へ導くため、窓や天窓、高窓、テラス、玄関ホールなど、それぞれの位置関係や形状を念入りに検証し、不整形で複雑な構造体に統合した。他にも、歩道からの外壁後退や洗濯動線の集約、昇降機の配置、換気経路の確保、植栽での緩衝領域、最小限の照明、軽い屋根などを考慮した。歩道から生活の場までを緩やかにつなぐため、玄関ホールを階段や土間と一体化させ、外部との緩衝空間とした。ここからは窓や天窓越しに外気を感じ、ガラス床やテラス越しには生活感を感じることができる。そして、家を見渡すことのできるこのような場所が、住人の生活に安心感を与えることを期待する。

不整形な骨格は、ねじれ交じり合いながら場所と場所のつながりをつくり、重なり合う葉の隙間から射す木漏れ日のような光の動きを実感させ、その間を移動する身体に能動性を与え、身体の生き生きとした知覚を目覚めさせる。特に吹き抜け空間がまとわりつく階段での移動体験では顕著である。3階分の高低差を行き来する生活には負担もあるが、身体に能動性を与えることは、そのような億劫な日常に刺激を与え、前向きに暮らす際にも有効であると考える。この建築における能動的な移動体験を例えるなら、樹上動物が幹や枝の複雑な樹木の中を行動し、枝の上のさまざまな居場所に次々と飛び移るような、野生的な体験といえるかもしれない。

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